LOGINエルフの女性、エリアに案内されて辿り着いた『鹿の角亭』は、仕事終わりの冒険者や地元の人々で賑わっていた。
「おや、エリア達じゃないか? 久しぶりだね。今日はお客を連れて来てくれたのかい?」
カウンターで宿の女将さんらしき快活な女性に声を掛けられる。
「うん、ちょっと色々あってね。結構人数いるけど空いている席はあるかな? それと宿泊する子がいるから部屋は空いてる? そこ予約しておいてくれる?」
「ああ、すぐに案内するよ」
給仕の女性が案内してくれて、カリナ達は奥の広めのテーブル席に座った。カリナの右隣には少し緊張した様子のヤコフが腰掛け、向かい側にはエリア、魔法使いの女性、スカウトの青年、重戦士の男が座った。
「さて、落ち着いたところで自己紹介といこうかしら? 私はエリア、この『シルバーウイング』のギルドの副団長を務めているわ。一応剣士ね、よろしく」
エリアがにこやかに名乗った。黒髪をセンター分けにしたロングヘア、切れ長だが優し気な翠眼をしている。身に付けているのは動きやすそうなレザーアーマーで、腰には使い込まれた長剣を帯びている。外は暗かったのでそこまで特徴は掴めなかったが、明るい店内だとその整った容姿がよく分かる。
「俺はロックだ。見ての通りスカウトをやっている。罠解除やトラップ探知は俺の得意分野だ、よろしく」
頭に赤いスカーフを巻き、短めの金髪をしている。見た感じ軽そうな雰囲気の青年だが、屈託のない笑顔で挨拶をするその姿勢には好感が持てた。スカウトらしく身軽さを身上にするため、軽いジャケットと黒いズボン、腰には二本の短剣を装備している。
「じゃあ次は俺だ。名前はアベル、見ての通りの力特化型の戦士だ。武器はこの背中のバトルアクス。よろしくな、お嬢ちゃん達」
赤茶色の短く揃えた髪をした、強面の屈強な男である。体には全身を覆うプレートメイル、背負った戦斧はその腕ほどもありそうな大きさだ。一見堅物そうだが、物腰は柔らかく、頼れる兄貴分といった印象だ。
「最後は私ね。セレナ、魔法使いよ。それにしても……こんな美少女が冒険者をやっているなんて。はぁ、その透き通るような肌をつんつんしたい……」
何やら不穏な発言が聞えたが、カリナは敢えてスルーすることにした。エメラルドグリーンの髪は肩までの長さで、ゆったりとした青いローブを着ている。耳にはリングの形をした大きなピアスをしており、お洒落な印象だ。テーブルに立てかけられた長い杖の先には魔力を帯びた宝石が嵌め込まれている。
「私はカリナという。これでも一応Bランクの冒険者資格を持っている。今はエデン王国のカシュー王からの任務でルミナス聖光国に向かう途中にこの街で一泊する予定だったんだが、この子がぶつかって来て事情を聞いたからには放置することはできないと思った。多少の道草も旅の醍醐味だからな。因みに召喚士で魔法剣士でもある」
悪魔が関わっているという可能性を口に出すのはやめておいた。いらぬ混乱を招くことにもなりかねない。
「エデンの任務?! ってことはカシュー陛下と近しい関係なのかしら。それにしてもこんな可憐な少女が国家任務に就くなんて、本当に相当な実力の持ち主なのね……」
「まあ、私の実力がどれほどのものかは明日のダンジョン探索でわかるさ。今はその程度の情報で十分だろ?」
カリナはそう言って不敵に笑い、はぐらかした。国の任務を一般人に詳しく説明する訳にもいかない。
「ぼ、僕はヤコフです……。両親のために態々ありがとうございます」
最後にヤコフが消え入りそうな声で自分の名前を言った。この少年にしてみれば居酒屋の様な場所に連れて来られた上に、見知らぬ冒険者達に囲まれているのだから居心地が悪いのだろうし、緊張もあるだろう。
「心配するな、ヤコフ。お前のことは私がちゃんと守ってやるからな」
そう言ってカリナはヤコフの黒髪を優しく撫でてやった。安心したのか、彼はもう泣き止んでいたが目はまだ少し赤いままだった。
「その子の両親はかなりの使い手よ。それが行方不明なんて不慮の何かが起きたのかもね……。でも安心して、私達シルバーウイングはAランクのギルドなの。これで全員って訳じゃないけど、明日は首を突っ込んだ以上私達だけで同行するわ」
エリアがそう言って胸を張った。なるほど、模擬戦でボコしたあの雑魚Bランクの冒険者達よりは遥かに頼りになりそうだ。そう思い、カリナは少し安心した。
「それにしても、いきなり『死者の迷宮』に連れて行ってくれなんて言われて、よくカリナちゃんは引き受けたもんだな。メリットなんてないだろうに」
ロックが感心したように言った。確かに普通に見ればカリナにとっては何の得もない話である。
「何でだ? 困っている者がいれば手を差し伸べる。それがある程度の力を手にした者の責務だろう?」
カリナは平然と言ってのけた。それが如何に崇高な理想であるのか、理解はできても実行に移す者は少ないのが世の中である。だが、カリナにとっては、かつてのリアルでのヒーローへの憧れにも似た、自然な感情だった。
「……すごいな。だが素晴らしい理想論ではある。では俺もその理想に乗らせてもらうとしよう。ここで会ったのも何かの縁だしな」
アベルはカリナの言葉に心を打たれたようだった。彼にしてみれば、カリナのような少女が口にできることではないと思えたが、それを可能にする力が彼女の瞳の奥にあるのだろうと感じられたからである。
「ええ、すごいわ。こんな美少女なのに、まるで正義感の塊の様な高潔さ……。ああ、その綺麗な髪をクンクンしたい……」
「やめなさいセレナ」
隣に座っているエリアがすかさずセレナの脳天にチョップをかました。「うぎゃっ」と言ってセレナはテーブルに額をぶつけた。
カリナは何だか妙な危機感を覚えた。セリナの視線はまるで獲物を狙う獣の情欲を孕んでいるかのように見えるからである。
「そいつは大丈夫なのか……?」
本気で心配になってエリアに尋ねる。
「ああ、可愛いものに目が無くてね。大丈夫よ、ちゃんと首輪をつけて見張っておくから」
「ああ、頼む。さっきから此方を見る目が完全に捕食者のそれなんだが……」
可愛いものが好きというレベルではないように感じられる。身の危険を感じるレベルである。カリナは少々寒気を感じたので、ルナフレアに持たされたコートを肩に掛け直した。
「はっはっは! セレナは相変わらずだな。まあそこまでの変態じゃないから気にしないでくれ」
「まあ、冒険中は真面目にやってくれる。これでもそれなりの魔法使いだからな」
ロックとアベルが苦笑しながらフォローするので、カリナもこれ以上追及することはやめることにした。
「エリア、いい加減に何か注文してくれないかい? ここはお店なんだよ」
カウンターの奥から女将さんがやって来て声を掛けて来た。確かに注文もしないのは失礼だったと、一同は謝罪した。それから各々好きなものを頼み、料理や飲み物を楽しんだ。
「酒は飲まないのか?」というカリナの問いに対して、彼らは冒険の前日には体調管理のために飲まないことにしているという。カリナはその姿勢に、ある意味冒険者としてのプロフェッショナルな流儀を感じた。
「お前達なら信頼できそうだ」
カリナは小さく呟いたが、盛り上がっている彼らの耳には届かなかった。支払いは自分ですると言ったカリナだが、子供に払わせるわけにはいかないと、エリアが頑として譲らなかったので、奢ってもらうことになった。
夜も更けてきたのでお開きとなったが、ヤコフをどうするかということが問題になった。こんなに遅くに子供独りで家に帰らせる訳にもいかない。それに帰宅しても両親がいない暗い家で過ごすのは酷だろう。一行がどうしようかと顔を見合わせていると、カリナが口を開いた。
「ではヤコフ、今日は私と一緒にここに泊まるとしよう。それなら寂しくはないだろう?」
「うん、でもいいの? カリナお姉ちゃん……」
「ああ、構わないぞ。今のお前を独りにする方が心配になる。私の部屋に一緒に泊まるとしよう」
その言葉にセレナ一人が騒然となる。
「ええええっ! 少年と美少女が同じ宿に泊まるなんて! な、なんて危険な、いや、背徳的なシチュエーション……ふぎゃっ!」
妄想を垂れ流して騒ぐセレナの頭に、再びエリアのげんこつがヒットした。
「アンタ以外は誰もそんな不純な気持ちで見てないわよ! わかったわ、じゃあヤコフ君をお願いね、カリナちゃん。明日は街の広場の時計台の下で、そうね、こっちも準備とかあるから10時に集合しましょう。また明日ね」
「ああ、広場の時計台だな。わかった、じゃあお休み」
「皆さんありがとうございました」
ヤコフも深々と頭を下げた。シルバーウイングの面々がその頭を順によしよしと撫でる。そうしてその日はお開きになった。
◆◆◆ 宿の浴場を使わせてもらい、身綺麗にしたところでルナフレアから渡された寝間着に着替える。薄手の白いワンピースのような部屋着で、胸元のレースが少々セクシー過ぎやしないだろうかとカリナは思った。長い髪を乾かしてからベッドに横になってアイテムボックスの中身を整理していると、ヤコフも男子浴場から上がって来た。宿で用意されていた子供用の寝間着を着せてやり、タオルで頭を拭いてやる。
「偉いな、ちゃんと一人で洗えたのか?」
「うん、お父さんやお母さんから自分のことは何でも自分できるようになりなさいって、いつも言われてるから」
「そうか、さぞかし立派な両親なのだな」
「うん……。でも帰って来ない……」
ぐすぐすと泣き始めたヤコフにカリナは困ったが、こういう時はルナフレアの姿勢を真似ようと思い立った。
エリアが取ってくれた部屋にはベッドが二つ置いてあったが、この状態のヤコフを独りで寝かせるのは忍びない。自分のベッドに入り、片手で掛け布団を広げる。
「一緒に寝よう、ヤコフ。それでお前の寂しさが少しでも紛れるのならだけどな」
「うん、ありがとうカリナお姉ちゃん……」
自分の枕を持って来たヤコフを招き入れると、カリナはヤコフを優しく抱き締めてやった。これが両親の代わりになるとは思わなかったが、この少年の不安を少しでも和らげてやりたくなったのである。
カリナの柔らかい身体に抱き着いたまま泣いていたヤコフだったが、やがて規則正しい寝息を立て始めた。どうやら安心してくれたらしいと思ったカリナは、自分もかなり疲れていたため、温かい体温を感じながら、そのまま二人で眠りに落ちた。
恐らくルナフレアならこうしてくれただろうと思ったカリナの行動で、ヤコフは安らかな睡眠を3日振りに取ることができたのだった。
◆◆◆ 翌朝目覚めると、ヤコフはもう既に起きて着替え始めていた。寝惚けながらカリナが身を起こすと、薄手のワンピースの様な寝間着の肩紐がずり落ち、豊かな乳房の膨らみが露わになった。それを見たヤコフが顔を真っ赤にして、見てはいけないものを見たと目を逸らした。「おはよう、ヤコフ。よく眠れたか? ……ってどうした?」
「カ、カリナお姉ちゃん胸が出てる!」
そう言われて下を見下ろすと、肩紐がズレて胸元が大きくはだけていたので、カリナは「おっと」と慌てて着衣を整えた。年端もいかない少年に妙な性癖を与えてしまったのではないかと心配になったが、ヤコフはその後は普通にしていた。
「私は着替えるのに時間がかかるから、先に下に行って好きなものを朝食に頼むといい」
「う、うん、じゃあ先に行っておくね」
逃げるように部屋を出ていくヤコフを見送ってから、カリナはこれまでにメイド隊から渡されていた衣装を見比べ、比較的動きやすそうなものを選ぶ。未だにブラジャーの着け方が難しくて苦戦する。ホックの位置がどうにも慣れない。
そうして何とか着替え終えると階下の食堂に降りて女将に朝食を頼み、ヤコフと一緒に食べた。簡単な洋食のセットだったが、空腹の腹に染み込んでいくように感じた。食後のコーヒーを飲みながら、備えられている新聞に目を通すと、ヤコフの両親が行方不明になっていることが大きく記事にされていた。これはヤコフに見られない方が良いだろうと思い、カリナはそっと新聞紙を折り畳んだ。
宿の料金は既にエリアが前払いをしておいたらしく、カリナはまたしても借りを作ってしまったことを悔いた。だが、彼女なりの善意なのだろうと思い、ありがたく受け取っておくことにした。
まだ集合の時間には間がある。その前に何かしらやるべきことはないだろうかと頭を巡らせる。そして宿の女将に近くの防具屋を教えてもらい、ヤコフと一緒に向かうことにした。
「世話になった。ではまた機会があれば寄らせてもらうよ」
「ありがとうございました」
「あいよ、お嬢ちゃん達も気を付けて行ってらっしゃい」
挨拶を済ませて宿を出ると、近くの教えて貰った防具屋へと向かう。
「カリナお姉ちゃん、どこに行くの?」
「今の普段着の格好だと、いざと言う時に怪我をするかもしれないからな。ヤコフに似合う防具を少し買いに行くぞ」
そう言ってカリナはヤコフの手を握って歩き出した。
朝の街の住人達は、宿から出て来たゴスロリチックな衣装を纏った気品ある美少女に目を奪われた。「どこぞの御令嬢か?」「それにしても美人だな」「あれは弟か? あんな綺麗な姉がいるとか勝ち組だな」などと噂が流れたが、カリナ自身はそんなことを知る由もなかった。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一







